2013年1月13日日曜日

ワタミ哀歌〜代替処理保留中のセクタ数が増えたよの巻

(2013/01/13 14:15 一部修正)

(2013/01/30 検索で来た人へ。近いうちに必ず壊れるので今すぐ買い換えましょう)

 代替処理保留中のセクタ数が5くらいのHDDがフリーズし、起動後の数値が27に。
 そろそろ死ぬ。
 2ヶ月前、CrystalDiskInfoで最初の異変に気づいた時点でバックアップをとっていた。
 今日はそれから更新された少しのファイルと、ブラウザのブックマークを保存。
 ほとんど使用していないdropboxフォルダも物理的に別なDドライブに移動。
 死にかけていて、もうじき確実に死ぬであろうHDDはおばあちゃん。
 「ワタミさんはご飯も美味しいらしいですし、やっぱり有名な大手が安心ですねえ」
 バックアップをとったりする俺はワタミ介護施設のスタッフ。
 「そっすか(クチャクチャ)」
 ガムを噛みながら受け答えする。
 「娘に感謝、感謝。ワタミさんに感謝、感謝です」
 「そっすか(クチャクチャ)」
 「今日はお風呂の日ですね」
 「っすね(クチャクチャ)」
 「ありがたいありがたい」
 おばあちゃんは手を合わせて何事か念じていた。
 スタッフはおばあちゃんの話をきかず、スマホでエロ画像まとめサイトを閲覧していた。
 「あ、じゃあこれから入浴っすから(クチャクチャ)」
 「お願いします」
 「人足りないんで、自分だけになるっすから(クチャクチャ)」
 「はい、はい」
 はいは一度でいいだろうがよ、とスタッフの若い男は舌打ちする。
 「ワタミさんのおかげでお風呂も入れて。本当。ありがたいですわあ。お兄さんも結構貰ってるんでしょ? お給料。40万か50万は」
 と、上目遣いで笑顔を向ける。
その細いまぶたから漏れる眼光は老人のものとは思えないほど鋭く、この老婆らが支払った莫大な施設入所料金の恩恵に預かっているであろうスタッフに、金を貰っているぶんちゃんと世話をしろという意味も込めていたのだった。
 若い男のスタッフはおもいきり顔を歪ませて苦笑する。
 「俺、手取りで10万いくかいかないかっすよ(クチャクチャ)」
 おばあちゃんは初め、何を言われたかわからなかった。
 10万? 10万円? その10万とはいったい何にたいしての報酬だろう。一時金。賞与。不景気だからボーナスが10万円ということか。おばあちゃんには今の10万円で何が買えるのかよくわからない。
 自分が老いぼれてからデフレが進んだのか。こんなに若い人とはいえ明らかに人員が少ない職場での重労働、残業も毎日しているようだから、彼らがパチンコやいかがわしい店にいっても余るくらいの賃金を貰うのが、彼女がよく覚えている時代では当然のことだったのだ。
 「んじゃ、入浴させていただきますっすので(クチャクチャ)」
おばあちゃんは拝みながら身を任せる。
 スタッフのスマホに着信があった。
 「あい。え? 無理だよ。今入浴したとこ。はあ? ねーわ。無理。って。まじで? はああああ。はいはい。はい。やりますよ(クチャクチャ)」
 舌打ちしながら電話を切った。
 「おばあちゃん、悪いんすけど、ちょっと待ってて(クチャクチャ)」
 「お忙しいのねえ」
 「すぐ戻るっすから(クチャクチャ)」
 「お願いしますね」
 スタッフが去る。
 浴室ではおばあちゃんが一人きりで入浴している。
 彼女は体が不自由で、自分の意志で浴槽に入ったり出たりすることは困難である。
 転倒防止の手すりをしっかり握り、スタッフの帰還を待った。
 10万っていくらくらいの価値があるのかしら。わたくしがこの前行った海外ツアーで衝動買いした安い指輪が日本円で30万くらい。同じく安物のダイヤのネックレスは日本円だと20万くらいだったかしら。わたくしはお金持ちじゃないし贅沢はしない主義だから。
 安いお店へご飯を食べにいくと1000円くらい? それともデフレだから100円? 100円で美味しいものが食べられるのなら10万円のお給料はそう悪くもないのじゃないかしら。
 ちょっとお湯が熱いわ。ぬるくするにはどうすれば。うちのお風呂と違って狭いし。狭いほうが老人には安全らしいけれど。腰が。腰が痛い。しんどいわあ。手すりを握りしめて、よいしょ。よいしょ。よい。よ。だめだわねえ。年を取ると困るわあ。
 それにしても10万って。まさか最低賃金とか。最低賃金って月30万弱はあるんじゃないの。10万ってお家賃のことかしら? そんな10万ぽっちで働いてちゃんと仕事してくれるのかしら。わたくしだったら無理だわ。夫がそんな給料なら即離婚。おお恐い。考えただけで、ぞっとする。
 あ。熱い。痛い。ちょっと。お兄さん。半身浴にしたいのですけど。もし。どなたか。もし。もし。お湯が。口まで。
 スタッフは施設外の職員用駐輪場の隅に設けられた戸外の喫煙所にきていた。
 スマホの設定を機内モードに変更し、彼はしばらくのあいだ誰からも干渉されない時間を手に入れた。
 壁にもたれ、紫煙をくゆらせた。
 くそ。タバコ吸うヒマもありゃしねえ。労働基礎法律、っていうのか、違反してねえか。休憩時間に休憩すると怒鳴られるんだからありえねえ。まじで。くそ。リーダー死ね。あの豚、何様のつもりだ。豚女房に豚娘。豚一家。豚の年賀状送ってくんな。年賀状の金をよこせ。50円ありゃスーパーでおにぎり1個買える。
 こうしてさぼるしか休憩できねえとかありえねえ。まじ。女。やりたい。ブスでもいいから。デブは勘弁。風俗いきてえな。1万5千円はかかる。きついな。新人のミエは顔が少し歪んでいて激しく気色悪いが体つきは悪くないな、顔隠せばやれるかも。この前話しかけたらシカトしてきたけどな。畸形のブスのくせに何きどってんだ。そのくせ豚には媚び売りやがって。あの豚、豚仲間とやって豚の子作るくらいだから、狐とやるのはむしろ大歓迎ってとこだろ。
 はあ。今夜は、豚とミエが職場でやるとこ想像して抜くか。たまには女とやりたいなあ。やりたい。1回でいいからやりたいなあ。
そろそろ行くか。下痢してたって言ってごまかそう。
 若い男のスタッフは背伸びし、朝礼で何度も唱和させられているスローガンを口ずさみながら施設内へ戻っていった。
 「ありがとう! 感謝の心(クチャクチャ)」
 「すみません! 反省の心(クチャクチャ)」
 「おかげさま! 謙虚な心(クチャクチャ)」
 「私がやります! 奉仕の心(クチャクチャ)」
 「はい! 素直な心(クチャクチャ)」

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